腰塚レイコの

お着物ことはじめ

着物を楽しく、おしゃれに着てみたい。でも着物って選ぶのも着るのも難しそう……。そんなあなたにアドバイスをしてくれるのが、東京・中目黒で着物屋『KAPUKI』を営む腰塚レイコさん。ルールに縛られすぎず、今の気分で着物を着こなすためのあれこれを教えてくれますよ。

第一回:着物は自由で、楽しいものです

イマドキ着物の楽しみ方を指南してくれる、腰塚レイコさん。連載第一回目は彼女のご紹介を兼ねたインタビューをお届けします。素敵に着こなすためのヒントを、まずはここから。

ー 今日着ている浴衣、キレイでしょう?八王子にある石塚染工さんの「形梅」というブランドのもの。江戸小紋の染屋さんなんですが、そこの五代目にあたる若い女性職人さんが、江戸小紋の型紙で木綿に手染めしているんです。家でも洗えるから夏の日常着にはぴったりね。今日は、襦袢を入れて帯もお太鼓にして夏着物風に着ています。
着物屋をやるくらいだから余程の着物好きだろう、と思われることも多いんですが、元々はそこまでではなくて。卒入園式や七五三に美容院で着付けてもらういわゆる“お母さんの着物”しか着ていなかったんです。それが、いろいろなご縁や流れで「着物屋をやる」ということになって、それなら自分で着られないとまずいよね、って(笑)。そうとなったら「ヨシ、まずは毎日着物で生活しよう」と決めまして。4年前のちょうど今頃ですね。それこそYouTube動画で浴衣の着付けを見て、ひたすら練習しました。最初は少し手間取りましたけど、2週間もしたら慣れてきて「私、着物大丈夫だな」って。でも、簡単に着られる浴衣の季節だったからスムースにスタート出来たっていうのは大いにあると思います。これが冬だったらハードル上がるじゃない(笑)?

ー この仕事をするなんて想像もしていなかった10年くらい前、なんとなく着物のこと知りたいと思った時期があったんです。それで本屋さんに行ったんだけど、なーんか真面目な「教則本」みたいな本ばかりが並んでいて、面白くない(笑)。ピンとくる、丁度いい本がなくって…… なんだ〜って思っていたら、文筆家の井嶋ナギさんの『色っぽいキモノ』っていう本のタイトルが、スパンッと目に飛び込んできたんです。「あっ!私はキモノをこういう感じで着たいんだ」っていうのが、そのタイトルを見て分かったの。着物の着方をきちんと意識したきっかけですね。それまでは普通レベルに着物に興味があっても「どう着たいのか」があまり分かっていなくて。なんとなく、型どおりに着ていたんだと思います。それがこの本に出会って、自分のイメージが固まった。「着物は色っぽくカッコ良く」というのが、私のスタイルになりました。

ー 柄on柄の組み合わせやたくさんの色を掛け合わせるような、トラディショナルな着こなしも素敵ですよね。ただ、私自身はそういうのがあまり似合わなくって。色数はなるべく抑えて2色か、せいぜい3色。柄と柄を合わせるとしても色のトーンを合わせたり、基本はシンプルです。特に東京はね、その方が街に馴染むような気がして。主観ですけど(笑)。
私にとって着物はファッションだから、洋服をコーディネートするのと同じように、自分が好きで似合う着方がしたい。着物は難しいっていう方は、着物は着物、洋服は洋服ってセパレートして考えるから、なんだか「ん?」って着こなしになるのかも。「こう着たい」じゃなくて「こう着なくちゃいけない」になっちゃうのね。
「間違ってるとか言われそうで怖い」という気持ちもわかります。特に着物好きにはルールに厳しい方も多いですからね。何か言われるんじゃないか、っていう自信のなさが不安に変わる。着こなしを楽しむというところまでなかなか行けないですよね。

ー 実は、現代のいわゆる“着物の着方ルール”って、たかだか戦後、長くても明治以降に決められたものなんです。それまでは着物しかなかったから、みんなもっと自由に着ていた。もちろん、破ってはいけない部分もいろいろあるんだけど……季節に合わせた決まりごととか、衿の合わせ方とかね。でも正直、どうでもいいような細かいルールも多いんです。私も言われたら言われるほど、なんでそんなの守らなきゃいけないの?ってなるから(笑)、マナーを守ればルールは崩していいじゃない?自分のセンスでどんどん楽しめばいいじゃない、って。
とはいえ、着物に関する基本的なルールを知っておくのは大事です。それを知った上での自分の求める姿、「こういう着方がしたい!」と思う気持ちが、着物を素敵に着こなすいちばん大切な要素じゃないかな。完成が分からなければ、自分にとっての正解も分からないですもんね。着物を着た時の完成図をイメージしておくこと。自分に合うスタイルを探すこと。それだけで着物の着方はだいぶ変わってくるはずです。

ー 私流の着方のポイントとして「後ろ衿をゆったり目に抜く」というのがあります。最初から、そうなるように仕立てているの。やっぱりうなじは色っぽさが演出できる部分。でもその分、前はきっちり締めること。これで前も開いてたら、だらしなくなってしまいます。だらしないのって品が良くないし、カッコ良くないですよね。そして、全体はほっそりとしたシルエットを目指して、お尻はかなりビターッとおさえて、キュッと上げる感じ。タイトに着こなすというのが、カッコ良さかなと思います。
和装界にはいわゆる伝統的な正統派、若い子向けのポップな世界、そして上級者向けのすごくモダンでとっても高級、みたいなラインがあると思うんですが、「丁度よく着られて、カッコイイ」というジャンルが抜けているなあと思っていたんです。私が好きで、店で扱っているのはその部分。でも、それ以外のものも、どれも良い。これじゃなきゃいけない、って縛られる必要はなくて、着物にだっていろいろな選択肢がほしいですよね。
着物って本当に自由で、おしゃれを楽しめるもの。たくさん見て、着て、ご自分の好きなスタイルを見つけていっていただきたいです。

腰塚レイコ

ネイルもメイクも、着物だからどうというのはあまりないんですが、ちょっと違うのはヘアスタイル。タイトかつ立体的な仕上がりが着物には合うなと思うんです。今日のアタマは、ちょっと時間かかって10分くらい。よく見るとそんなにキレイに作ってないし(笑)。アウトラインを決めて、そこに近づけるの。形になればヨシ、というくらいラフな気持ちでいいと思いますよ。


腰塚レイコ(こしづか・れいこ)
スタイリスト、ブランドディレクターを経て、フォトグラファーで旦那様でもある腰塚光晃さんと、着物セレクトショップ『KAPUKI』をオープン。自由でおしゃれでカッコ良い着物の着こなしを提案している。
http://kapuki.jp/

staff
editor : KEI YOSHIDA
photographer : SABURO YONEYAMA (SignaL)
designer : TOSHIYUKI SHINKE (Japan Designers Organization)