着物に魅せられ、着物を愛するーーー
美しきKIMONO LOVERたちが、着物への想いを語ります。

泉二啓太(銀座もとじ)

着物づくりにたずさわる人の想いを伝えていきたい

今回のゲストは銀座で3店舗を構える呉服屋「銀座もとじ」の若き二代目、泉二啓太さん。銀座の呉服屋のご長男、と聞けば幼い頃からバッチリ着物の英才教育を受けて育ったに違いない、と思ってしまいますが……
「いえいえ、全く。僕、着物なんて一枚も持っていなくて、七五三とか成人式でしか着たことがなかったんです。
小さい頃から父(店主・泉二弘明さん)が365日着物を着ていて、授業参観でも家族旅行でも着物しか着ないっていう人で。それがイヤでイヤでたまらなかったですね(笑)。呉服屋ってダサい商売だっていう気持ちが強かったですし、とにかく店を継ぐことだけは絶対にないと思っていました」
 暇さえあれば原宿に通い詰めるほど、ファッションや音楽、ストリートカルチャーが好きだった啓太さん。高校を卒業後はファッションを学びにロンドンの大学に留学します。そこで初めて、自分が日本人であることを強く意識したと言います。

泉二啓太(銀座もとじ)

「ファッションの学校に通っていたので、コレクションシーズンにはどのブランドがどうだったみたいな話によくなりました。特に、日本のブランドが、トップメゾンと並んで海外で輝いているのを見て、同じ日本人としてとても誇らしかったですね」
そんな洋服一辺倒だった啓太さんの気持ちが変わるきっかけとなったのが、美術の授業で行われた〈民族衣装をデッサンする〉という課題でした。
「世界中の民族衣装がある中で、おしゃれな友人たちがこぞって着物をセレクトしていたんですよ。そしてみんな当然、日本人の僕に着物についていろいろ質問してくる。この部分はなんなんだ、この生地は何の種類だ……と。でも僕は、本当に着物について何も分からなくて、すごく恥をかいたんです。そんな状況で〈着物〉という存在が初めて自分の目にプラスに映ったんですよね。こんなにすごいものだったんだと。それが本当にいい経験でした。着物の魅力というものに、海外に行かなかったら今も気づけなったんじゃないか、と思います。」

 着物の魅力に気づき始めた啓太さんの気持ちをさらに刺激したのは、やはりお父様。
「18で留学して、久しぶりに父に会ことになったのが21の時だったんですよ。ミラノに来るというのでじゃあ現地で会おうとなって。僕なぜか、父が着物しか着ないっていうことを忘れていたんですよね(笑)。待ち合わせ場所で着物姿の父を見て、ハッとさせられました……まるで、レッドカーペットを歩いているかのようとまで言うと言い過ぎなんですけど、良い意味で周りからもすごく注目を浴びていて。その姿がとても堂々としていて存在感があったんですよね。この“堂々としている”姿というのが、男性としてすごく重要だな、と感じて。初めて素直に「着物が着たい」という気持ちになりました」
 
「今はもう、ほとんど毎日着ています。仕事はもちろん、プライベートでも例えばパーティーに行ったりするときなど。洋服も好きなので365日っていうわけではないですが」
入社して最初の1ヶ月は季節に合う着物を持っていなかったためスーツで過ごし、着物を着始めたのは2ヶ月目から。
「僕の着物姿を見たお客様に「あなた絶対に洋服の方がいいわよ」とよく言われました(笑)。でも絶対に着物が似合うようになってやる!と思って毎日着続けて。そのうちだんだん、体に馴染んでくるようになりました。ワードローブのひとつに着物を、という想いは入社当初からありました。着物をファッションにしたい、モードにしたい、という想いがずっとあって。入社してすぐにいろんなことを記していこう!って買った秘密のノートがあるんですけど(笑)、そこにも最初のページに『着物をモードにする』って目標が書いてある。僕の原点ですね」

男性の帯は前下がりに締めるのが粋。「最初の頃は気づくとお腹まで上がってきて、子供の着方になってしまっていました」。自然に下腹の位置に納める、という所作が身についたのも着物を着始めて1年以上経ってから。ぐっと締めると気が引き締まり姿勢も整います。
足袋は白。「お客様と接する立場だからというのもあるかもしれませんが、白足袋しか履かないですね。やはり気持ちが引き締まりますし、見た目も清潔感がありますよね」

秘密のノートには、作家さんから学んだことやお客様への想いがぎっしり。
「『自分の目で見て、自分の耳で聞いて、自分の手で触ったものを自分の言葉で伝える』というのが、うちの店のモットーなんです。現場へ赴いて作業のお手伝いをさせていただきながら、作家さんや職人さんの技術、想いを受け取ること。
その現場主義のおかげで、僕も入社して一週間目で江戸小紋作家の藍田正雄先生の工房に行かせてもらいました。先生から教わった『金は錆びない』という言葉は、今でも僕の支えになっています」
金は、見つけ出すのは大変だけれど、本物は輝き続ける。それと同じで、本物の仕事をしていれば、必ずどこかに見つけてくれる人はいる。職人として厳しい時代を乗り越えてきた藍田先生の言葉に「自分はこの道でやっていこう」という決意が固まったと言います。

「藍田先生は僕の基礎を作ってくださった大切な、大切な存在。仕事を始めてすぐにお会いすることができたのは、父に感謝しています。
他にもいろんな産地や作家さんの工房に行かせてもらいました。着物はひとつひとつに作り手の方の物語が詰まっているから、それを知るとより魅力的になる。この裏側に込められた物語をいかに伝えていけるかが、僕の役割ですね」

「着物を着こなすコツ、はやっぱり自信を持って着るということだと思います。恥じらいの気持ちや自信のなさはどうしても姿勢に出てしまうので、着姿が綺麗に見えないんですよね。だから、いかに堂々と着られるか!がすごく重要になると思います。
それにはまず慣れること。最初は浴衣でもいいと思います。浴衣だったら汚してしまっても洗えるから、失敗してもダメージは少ない。例えば普段はサッと手を伸ばしてテーブルの上のお醤油をとる時も、袖を抑えないと汚れるとか。そういう所作を学ぶにはぴったりです。
あと、姿勢としては胸を張ることで綺麗に堂々と見えますし、結局は着る回数だなと思います。それが着物が自分の体に一番馴染むということ」
思い切って作家ものを着てみる、というのもおすすめだそう。
「作家さんの想いがパワーになる、ということってありますね。好きな着物を着ているという自信につながるし、『大切に着たい』と思うと自然に丁寧に扱うようになり所作も気にするようになりますしね。この着物を着るならそれなりの振る舞いをしないと、という気持ちが生まれてくるんです」

どうしても敷居が高いと思われがちな、着物の世界。魅力は感じるけれどその一歩がなかなか踏み出せない、という人も多いです。
「そうなんですよね。でも、敷居があまり低いのもダメというか。今は日常的に誰でも着物を着ているという時代ではないので、特別感がありますよね。だからこそ「大人の世界に入るぞ!」という、緊張感はありながらワクワクもする、〈楽しい敷居の高さ〉にしていきたいなと思います」

「ルールがありすぎて大変そうともよく言われますし、たしかにルールは色々あります。でも最初はなんでもいいと思うんですよね。僕も『着たい』と思ってみたことがきっかけですし、好きなファッションとして入ってもいいんじゃないでしょうか。慣れてくるとルールが見えてくるし、それには意味があることもわかってくる。
着物は一緒にいる人や、迎え入れる側の人にも恥をかかせてはいけない、というのがあるので、そこはもう勉強しながらTPOに合わせて着ていけるようになればいいと思います。その上で、9割は崩さないけど残りの1割はとことん遊ぶ、みたいな着方ができていったら面白いのではないですかね」

守るべきところはしっかり守りつつ、時代に合わせて攻めていく。今の時代に着物を着るというのはそういうことなのかもしれません。

「いま古典柄とされているものだって、その当時はパンクなものだっただろうし…… 伝統は進化していかないと止まってしまうし、軸はブラさずどんどん代謝していかないと、誰も入ってこなくなってしまう。そういう部分を意識しながら、自分もまだまだ勉強中の身ですが着物の魅力を伝えていけたらなと思っているんです」

今日のお着物(捐影日:7月18日)

普段からベーシックな色のものを選ぶことが多くて、それでもやはり夏は、今日みたいな少し遊びの効いたものも着たくなります。ドットのように見えるのは、鮫小紋という文様を大きくしたもの。伊勢型紙を用いて薄いベージュと鼠色の2色で染めてあります。よく見るとドット部分の色が違います。

泉二啓太

泉二啓太(もとじ・けいた)
「銀座もとじ」店主・泉二弘明氏の長男で、二代目。高校卒業後、ロンドンの大学でファッションを学び、帰国。海外に出たことで着物の魅力を再発見し、帰国後の2009年同社に入社。現在は取締役常務。

staff
interviewer:KEI YOSHIDA
photographer:SABURO YONEYAMA (SignaL)
art director:IZUMI ITOYAMA (Japan Designers Organization)
special thanks:GINZA MOTOJI