腰塚レイコの

お着物ことはじめ

 久しぶりの連載更新です。今回はお店の外へ出て、レイコさんの足袋づくりに同行。東京は新富町にある『大野屋總本店』さんにお邪魔しました。

第四回:レイコ、足袋を誂える

腰塚レイコ

お店の前で、七代目店主の福島さんと。店構えも良いんです!

 みなさん、こんにちは。KAPUKIの店主・レイコです。
 今回はお店を飛び出し、中央区新富にある老舗足袋専門店『大野屋總本店』さんへ。初めて足袋のオーダーをしてきました。 
1770年創業というから250年近い歴史があり、店主の福島茂雄さんはなんと七代目! 古くからたくさんの歌舞伎役者さんや能楽師さん、狂言師さんなどを顧客に持つ名店です。

 「足袋の底の部分を狭くとって、つま先がふっくらと見えるように仕上げた「新富形」という足袋はうちが作ったんですが、それを履くと舞台の上で足がほっそり、小さく綺麗に見えると言っていただいて。気に入っていただいているようです」(福島さん)

普段から足袋を履くなら白足袋、と決めている私。シャキッとした雰囲気が好きだし、落ち着くんですよね。
誂えはまず、採寸から。親指からかかとまでの長さ(丈)、土踏まずあたりの周囲(甲)、かかとの周囲(口)、足首まわり(〆)、さらに指の長さなどなど細かいところまでメジャーでチェック。

 採寸が終わったら、いくつもある既製の型の中から、合いそうなものを福島さんが選んで試着させてくださいます。
これまで足袋を履くときに私を悩ませていたのは、親指。親指の外側に締め付けられるよう圧がかかって「痛い!」ってなっちゃう。

「多分、長さが十分じゃない足袋をお履きなんじゃないかと思いますね。レイコさんでしたら25もしくは25.5の「細(ほそ/型の種類)」がいいかもしれませんね」(福島さん)

あら、まさかの25.5!? 普段の私の靴のサイズは24.5センチ。25.5ってすごく大きく感じちゃうし、驚いちゃいますね。

「靴の場合は横に多少逃げる部分があるのですが、足袋は指までぴちっとあたって逃げがありませんよね。だからあまり伸縮しないということと、洗ったら縮むものだということを頭においていただくのがよいと思います。レイコさんの場合は25.5だと少し大きいかもしれないので、25の細にして、ほんのちょっとだけ、親指の外側を出させていただくのが良さそうですね」(福島さん)

腰塚レイコ
腰塚レイコ

足や歩き方の癖、普段履いている靴のサイズや足袋を履いていて気になるところ…… 細かいところまで話しながら、採寸していきます。「こはぜは4枚でいいですか?」にレイコさん「5枚で!」と即答。その理由は「だって、5枚こはぜの足袋って、かっこいいじゃない(笑)」。

採寸が終わったらオーダーシートを見ながら、細かい部分のご相談に入ります。
素材は何が選べるのかな?麻とキャラコなど見本を触って生地の感触をチェックさせていただきます。

「夏物ですと、やはり麻ですとか。裏地だけ麻にして表地はキャラコにすることもできますし、表裏ともに麻にするのも多少は硬いですが涼しげでいいですね。あとは単と言ってそれこそ夏専用に、裏地をつけずに一枚でお作りすることもあります」(福島さん)

もっともスタンダードなのはやはり、キャラコ。薄くてツヤがあり目の細かい白木綿です。

「足袋用の7500番という糸を浜松の方で織っているキャラコを使っています。かなり丈夫でツルっとしているので、一般でお使いになる方にはいちばんお勧めではありますね」(福島さん)

オーダーは五足から可能ということで、私は麻を一足、キャラコ四足でお願いしました。

腰塚レイコ

腰塚レイコ

誂えのもうひとつの醍醐味!こはぜに名前を入れることができます。使用可能な表に私の名前の漢字はなかったので、今回は「れ い こ」と平仮名での名入れをお願いしました。

 片足分の足袋をつくるのに、内側に2枚、外側に2枚、底に1枚に裁断した生地を使います。足の形に合わせた立体裁断なので、職人さんによりすべて手作業で行われます。カットした生地はミシンで縫い合わせていきますが、縫う部分によって糸の太さも変わるほどの繊細さ。丸く美しいつま先に仕上げるためにこちらも高い技術が必要です。
縫い上がったら、木槌で叩いて生地をなじませます。当たっても痛くないようにという気遣いなんだそう。

「まず一足お履きいただき、3回くらいは洗ってください。痛いところがないかとか、きついとかゆるいとか、足の感触を確かめていただいて。よろしければ、残りをお作りさせていただきます」(福島さん)

何度か水通しするとキュッと縮んでくる足袋。半乾きの状態でつま先とかかとをちょっと引っ張ってから干すと、シワが取れて、次に履くときに違和感なく履けるそう。またアイロン台の端っこに被せるようにしてアイロン掛けをすると綺麗に仕上がる、というのも教えていただきました。
特に汚れがきついところは、タワシのようなものでゴシゴシあらってもOKだそうです。

「すごく昔の足袋をお持ちになる方もいるんですが、新品のまま保管しておくとサラシの粉が変色して黄色くなってしまうことがあるんですね。古い足袋はまず、水通ししていただくのがいいかなと思います」(福島さん)

また、例えば既存の生地以外でも足袋が作れる分量があれば、持ち込みOKとのこと。ハギレなどを持ってこられるかたもいらっしゃるそうです。(KAPUKIと言えば……ということで、レザーでもできますか?と聞いてみましたが、機械の関係でそれは難しいそう)

さて、これにてオーダー完了。時間にしてだいたい、30分くらいでした。
サンプルが出来上がるのはだいたい一ヶ月後!楽しみです。

腰塚レイコ
腰塚レイコ

ベースの型にも種類、牡丹・梅・柳・細。「昔の標準サイズより大きくなってきていたり、シュッと長い方が増えてきましたね」(福島さん)

そして、一ヶ月後某日。サンプルが出来上がったとのことでさっそく試しばきに伺いました。
こはぜに入った「れいこ」の文字がまぶしい!
福島さんに調整しながら、履かせていただきます。
お水を通すとギュッと縮まるということを加味してとりあえずこちらをお持ち帰りさせていただくことにしました。

腰塚レイコ
腰塚レイコ

お値段は、既製品の足袋プラス誂え料金700円(一足分、オーダーは五足から)。キャラコの場合は4200円+700円で4900円、私がお願いした麻は4800円+700円で、5500円でした。
なんていうか…… 思ったよりもお手頃価格だな、というのが正直なところ。もちろん贅沢品ではありますが。
「なにせ足袋は消耗品ですから。それでも決してお安いものではないと思います。長く履いていただけるように、丁寧にお作りさせていただけたらと思います」(福島さん)

腰塚レイコ

このあと自宅で履いて何度か手洗いをしてみたところ、ちょっとここがきついかな? ゆるいかな?というところが出てきたので、それを持って再度訪問。微調整していただいて、誂え足袋が無事完成しました。
足を無闇に締め付けないけれどきちんとフィットするというのが嬉しいですね。
とっておきの麻のmy足袋、大切にどんどん履いていきます。


腰塚レイコ

福嶋茂雄/『大野屋總本店』七代目店主
1968年東京生まれ。大学卒業後に3年間の商社勤めを経て現職へ。お店は歌舞伎とゆかりの深い町・新富に在り、長年、歌舞伎や能楽を始めとする伝統芸能や舞台の衣装などにも数多く携わっている。

大野屋總本店
東京都中央区新富2丁目2-1
営:9:00~17:00
休:土日祝
https://www.oonoyasohonten.jp

腰塚レイコ

腰塚レイコ(こしづか・れいこ)
スタイリスト、ブランドディレクターを経て、フォトグラファーで旦那様でもある腰塚光晃さんと、着物セレクトショップ『KAPUKI』をオープン。自由でおしゃれでカッコ良い着物の着こなしを提案している。
http://kapuki.jp/

editor : KEI YOSHIDA
photographer : SABURO YONEYAMA (SignaL)
designer : TOSHIYUKI SHINKE (Japan Designers Organization)