腰塚レイコの

お着物ことはじめ

着物を楽しく、おしゃれに着てみたい。でも着物って選ぶのも着るのも難しそう……。そんなあなたにアドバイスをしてくれるのが、東京・中目黒で着物屋『KAPUKI』を営む腰塚レイコさん。ルールに縛られすぎず、今の気分で着物を着こなすためのあれこれを教えてくれますよ。

第二回:秋の着物に、デニムはいかが?

この夏の東京は、変なお天気でしたね。梅雨時にほとんど雨が降らないと思ったら、8月は毎日のように雨降りが続いたり。ほんの10年前と比べても、気候が変わったなーと思うわけです。四季の変化に富んだ日本ですから、着物の世界ではその季節感を活かした着こなしルールがとても大切にされています。例えば夏が終わった今の時期は、夏の薄物から「単衣(ひとえ)の着物」に変えるというのが一般的。

生地が厚めなのでタイトにピタッと着つけた方がかっこよくキマります。
デニム着物(1year)¥48,000、帯ベルト¥42,000、草履¥38,000(問い合わせすべてKAPUKI)

一ヶ月後の10月からは袷(あわせ)に変わるという贅沢さ。とても粋なルールだと思うのですが、現代ニッポンの気候事情では、9月なんてまだまだ残暑の真っ只中。簡単に洗えない着物なんて、正直暑くて着ていられない! ……っていう方も、多いと思うんです。私のように。
特に「初めてのキモノ」として夏の浴衣から入門した方であれば、いきなりきちんとした着物を買うのはけっこう勇気がいりますよね。そこでこの季節からお勧めしたいのが、デニムの着物です。

デニム着物には良いところがいっぱいあります。まず、肌触りが柔らかく着やすい。カジュアル素材なので少しぐらいの着崩れも気にならないし、そもそもデニムだから小物がなんでも合わせやすい。そして最大の魅力は、その扱いの手軽さ。おうちの洗濯機でガンガン洗えるし、干す時に手アイロンでシワを伸ばして、乾いたらそのまま畳んで普通のお洋服と一緒にクローゼットに仕舞えます。汚れちゃったらどうしよう、と気にしなくていいのは本当に楽チン。

今くらいの時期は今日みたいに1枚でサラッと、少し寒くなってきたら襦袢を入れて。冬には内側に肌着を着ても響きづらいというのも、いいところです。さすがに真夏は暑いですが、秋口から春までの3シーズン着られますよ。
私はデニム着物に関しては割と正統派の着方をしていますが、帽子やブーツを合わせたり、寒い日はタートルネックを合わせるという方もいるくらい、自由度が高いもの。ジーンズと同じで着るほどに柔らかく馴染んできて、色落ちなどの経年変化も楽しめます。

西陣織の帯地で作った着物ベルトたち。着用しているものと同じ「千鳥」は、アートディレクター・西岡ペンシルさんによるオリジナルの千鳥文様。ほかクールなシルバーの「沙綾形(さやがた)」と鮮やかな「孔雀」(2色)。

さて、たいていの小物が合ってしまうデニム着物。今日はピリッとパンチの効いた千鳥格子の帯ベルトを合わせました。この帯ベルト、その名の通りベルトのようにくるっと巻いて紐一本で結ぶだけで、あっという間に着物が着られてしまうという優れモノです。帯が結べないから着物が着られない~なんて、これがあったら言わせません! 今日巻いているのは、西陣織の帯地をベルトに仕立てたタイプ。もうひとつレザーのシリーズもあるのですが、帯地を使ったものの方がより“着物感”が出るので、初心者の方には特にお勧めですね。
足元はリップとコーディネートした赤いエナメルのお草履。つっかけ感覚で履ける、昔ながらのペッタンこ草履です。今日は暑いので素足で履いちゃいました(これも現代のキモノルールではNGかもしれませんね)。

着物の世界って時が止まったままになっている部分があるなと思うのです。そうするといつまでも〈昔の人が着ていたもの〉という、特別な場所に置かれたままになってしまう。「伝統は革新の連続」って私はよく言うんですが、デニム着物も帯ベルトもその“革新”のひとつで、時代に合わせて生まれた進化系アイテム。着物をより身近に引き寄せるきっかけになったら、嬉しいですね。

帯ベルトのレザーバージョン。パイソン型押しはよりモードに、茶色はベーシックな着こなしに。コルセットのようなカーブが体のラインにフィットして、美しいシルエットを強調してくれます。
とっても軽くて履きやすいフェイクファーの鼻緒草履は、カリフォルニアのブランド「Say the sun」のもの。畳地が素足にも気持ち良いと人気です。着物にはもちろん、普段履きにも。

腰塚レイコ(こしづか・れいこ)
スタイリスト、ブランドディレクターを経て、フォトグラファーで旦那様でもある腰塚光晃さんと、着物セレクトショップ『KAPUKI』をオープン。自由でおしゃれでカッコ良い着物の着こなしを提案している。
http://kapuki.jp/

staff
editor : KEI YOSHIDA
photographer : SABURO YONEYAMA (SignaL)
designer : TOSHIYUKI SHINKE (Japan Designers Organization)